「ここに住んでみたいかも…」
中世ヨーロッパを舞台にした映画やゲームを見ながら、ふとそんな気持ちになったことはありませんか?
もちろん、現実の中世は決してユートピアではなく、病気・戦争・差別もありました。
それでも私たちは、なぜかその世界に「理想郷(ユートピア)」を重ねてしまう──
この記事では、その**“錯覚”にひそむ心理学的な理由**を探っていきます。
1|なぜ“過去の世界”に理想を投影するのか?
人は「知らない世界」に対して、想像で“隙間を埋める”傾向があります。
これは心理学で「認知的補完」と呼ばれます。
- 知識が曖昧 → 想像力で補う
- 現実の嫌な部分が見えない → 美化される
つまり、現代よりも情報が少ない中世の世界は、自分の“理想”を投影しやすいキャンバスなのです。
2|“秩序”がある世界は安心できる
現代は自由で選択肢が豊富な分、**「決められない」「不安定」**というストレスを抱えやすい社会です。
一方で中世の世界は──
- 役割が決まっている(農民、騎士、僧侶など)
- 村や共同体で生きている
- 神や宗教による精神的な指針がある
これらは、心理学的に「構造化された世界」=予測可能で安心感のある世界とされます。
3|“ノスタルジー”と“ユートピア”の錯綜
中世ヨーロッパに惹かれる感情は、単なる歴史ロマンではなく、**懐かしさ(ノスタルジー)**に近いものがあります。
しかもそれは、
実際に経験した記憶ではなく──
「こうだったらいいな」と思う“記憶っぽい理想”
この感覚は、「ノスタルジック・ユートピア」とも呼ばれ、過去と理想が混ざった幻想を生み出します。
4|“自然と共にある暮らし”への憧れ
中世を理想化する心理には、「自然への回帰願望」もあります。
- 火で灯る部屋
- 水車と井戸のある村
- 土と草に囲まれた生活
現代の都市生活では得られにくい、五感をフルに使った暮らしに、私たちの本能は安らぎを覚えるのです。
おわりに|理想郷は、外にあるのではなく“内側”に
私たちが中世ヨーロッパにユートピアを見てしまうのは、
そこに“現代にない何か”を感じているからです。
けれどそれは、単なる歴史的事実ではなく、私たち自身の“心の欲求”を映し出している鏡かもしれません。
- ゆっくり流れる時間
- 明確な居場所
- 人とのつながり
それらを求める心が、中世という幻想に「理想郷」を重ねてしまう──
それが、私たちの中にある“安心を求める心理”のかたちなのです。